恐怖のループゲーム、その後 雷電DX

雷電DXは、雷電シリーズの3作目にあたる。雷電シリーズの集大成と位置づけられる作品だ。現在でも、稼動しているゲーセンは結構多い。

しかし、このゲームの最も深い部分については、ほとんど知られていないと思う。そのあたりを書いてみたい。ゲームの紹介と言うよりは、一人のプレイヤーの紹介になってしまいそうだが。




動画1


雷電DXとはどんなゲームなのか、まずは動画1を観てもらいたい。上級コースのものだ。

敵の攻撃は、自機を狙って撃つ高速弾がメイン。そういう意味では鮫!鮫!鮫!に近いものがある。伝統的な東亜シューティングに近いと言うべきか。

上級コースはループゲームになっており、動画1では40:40あたりから2周目が始まっている。周回数が上がると、敵弾が速くなってくる。敵弾の数が多くなるかどうかは不明。敵の耐久力に変化は無いようだが。

動画1では、3周目のクリアまで行っている。3周目でも敵弾の速さはかなりのものだ。



雷電DXは、「練習コース」、「初級コース」、「上級コース」の3つが用意されている。

練習コースは、雷電シリーズ初心者向けのもの。難易度も低く、10分ほどの長さの1つのステージで構成されている。シューティング慣れしている人なら、初見でクリア可能なレベルだ。

初級コースは、前作である雷電Ⅱの1~5面を、少し難易度を低くしたものらしい。それでも簡単とは言い難い内容になっていると思う。

上級コースは、全8面のループゲームになっている。隠しステージとして9面が存在する。4周目まで難易度が上昇し、5周目に入ると難易度が下がるらしい。このあたりは明確ではないのだが。

練習コースと初級コースは、普通にプレイするなら軽めの内容と言えるだろう。しかし、この2つには特殊なフィーチャーが存在する。それが「Mission Advanced」というものだ。



練習コースと初級コースでは、特殊な条件を満たすと「レーダー」というものが出現する。これの破壊率が100%で、かつ敵の破壊率が99%以上だと「Mission Advanced」という条件クリアの状態になる。

練習コースで「Mission Advanced」を獲得すると、そのまま終わりにはならず、難易度が1周分上がって初級コースに入る。つまり2周目相当の初級コースをプレイできるわけだ。さらにその初級コースで「Mission Advanced」を獲得すると、また難易度が1周分上がって上級コースに入る。

練習コースで「Mission Advanced」を獲得している動画があったので、紹介しておきたい。動画2である(音量が大きいので注意!)。金色のダイヤみたいなのがレーダーだ。


動画2



さて、「Mission Advanced」を2回獲得し、上級コースに突入するとどうなるか。これは1周目が、すでに3周目相当のランクになっているわけだ。上級コースは4周目まで難易度が上昇するので、その4周目は実質6周目の難易度ということになる。

この実質6周目は、気が狂っているとしか言い様がない世界だ。敵弾があまりにも速過ぎる。このサイトでは鮫!鮫!鮫!の12周目の動画を置いてあるが、これとは全く比較にならないような速さだ。それこそ倍くらいの違いがあるのではないかと思う。

この実質6周目の実例の動画は見つからなかったが、近いと思われるものがあったので紹介しておく。動画3がそれである。



動画3

動画3はアーケード版ではなく、プレイステーションへの移植版らしい。「ARCADE4」というのが何を表すのかははっきりしないが、おそらく4周目相当の難易度からスタートするということなのだろう。

動画3でも、「Mission Advanced」を2回獲得している。そうなると、上級コースに入った時点で6周目相当になっているということか。アーケード版と同じなのかどうかは不明だが、確かに敵弾の速さは近いものがあると思う。

34:00あたりから、実質6周目が始まっている。もう敵弾が速過ぎてよく見えない。実際のゲーム画面を見れば、さらに速く感じるはずだ。

動画3のプレイヤーも恐ろしい実力だが、4周目相当から始めているので、トータルの時間は1時間程度である。そこがまだ救いのあるところだ。

しかしアーケード版では、このようなスキップ機能は無い。最初から地道に上がっていくしかないのだ。アーケード版で実質6周目をクリアするのは、4時間くらいを要すると思われる。そして、この厳し過ぎる課題に取り組んでいるプレイヤーが居た。



そのプレイヤーを、X氏と呼ぶことにしよう。X氏は全国でも指折りの実力者で、どんなゲームをやっても上手い万能選手だった。

そのX氏が、ある日こんなことを言っていた。「雷電DXというゲームを始めることにしたんだ。なんでも、最高周回がヤバイらしい。それをクリアすることを目標にしようかと。」

私はその時、雷電DXについてほとんど知らなかった。でもあの人にかかれば、そんなに時間もかからずに陥落するだろう、そう思っていた。

2ヶ月くらい経って、彼が雷電DXをやっているところを見せてもらった。上級コースの実質5周目まで到達していたが、私はその異常な難易度に閉口した。何をどうしたら生き残れるのか、目途すら立たない。さらにこの上の周回があるのだから、絶対にこんなの無理だろうと思ってしまった。



しばらくして、彼に雷電DXの進み具合を聞いてみた。「最高周回には行けたんだけど、かなり厳しい。なんとかなるとは思うけどね。」という答え。この人がこんな台詞を口にするのは珍しい。よっぽどきつい世界なのだと思い知った。

さらに何ヶ月か経った頃に、どうなったかを聞く機会があった。ところが、以前から進展が無いらしい。彼をここまで苦しめるとは、なんと恐ろしいゲームなのか。

実際に、雷電DXの実質6周目をクリアしている人は一人もいなかったらしい。クリアできれば、最初の達成者となるわけだ。それだけ厳しい課題であることは分かるが、あのX氏がここまで苦戦しているのは意外だった。



さらに時は流れて、また彼に会った。しかし、まだ目標には届いていないらしい。あまり詳しいことは聞かなかったが、彼の表情からして辛い戦いが続いていることは察することができた。私としても言葉が出ず、頑張ってくださいとしか言えなかった。いかなX氏といえども、不可能なのだろうか? まだ誰も達成していないというのが、底なし沼のような恐怖をもたらす。

それでも、彼は最終的に目標を達成した。とても長い時間がかかっていたと思う。おそらく、季節が一巡りするくらいは。もしかしたら、二巡りしていたかもしれない。

2019年現在でも、この偉業を成し遂げたのはX氏だけだと思う。もちろん断言はできないが、私が得ている情報では他には存在しない。



意外なことだが、X氏が達成したこの成果はあまり知られていないようだ。これは、数字的な印象の強さが無いためだと思う。

ループゲームにおいては、キリの良い数字のウケがいい傾向がある。達人王1千万点、鮫!鮫!鮫!1億点など、桁が上がった瞬間の数字がみんな大好きだし、それに価値があると思っているようだ。

しかし、最高難易度の周回をクリアというのは、インパクトが薄いのだろうか。雷電DXでも、1千万点や2千万点などの成果はそれなりに評価されていると思う。だが、X氏の偉業が話題に上ることは少ない。

X氏はあまりにも突出した存在のため、比較できる相手が見つからないのも原因だろうか。誰かと比べることができないと、そのレベルを推し量ることは難しくなる。やはり分かりやすい物差しが無いと、称賛に結びつかない。



X氏は、自分で満足できればそれでいいと言っていた。人の評価というのも、曖昧なものだ。私としては、X氏が苦労した末に出した結果だということ、それだけで最高の賛辞を贈りたいと思う。

彼が雷電DXをやっている姿を見ていて、最も印象に残ったのはその精神力の強さだ。本来は陽気な人で、ゲーム中でも話をしていることがよくあった。しかし、雷電DXのプレイ中は静かになる。私も近寄りがたい雰囲気だった。それだけ集中していたのだろう。

はっきり言ってしまえば、慣れている人にとっては練習コースとか初級コースは面白くない。むしろ苦痛なくらいだろう。最高周回との落差が大き過ぎる。それでも、気を抜いてやっていたのでは条件をクリアできなくなってしまう。最初から集中することを求められる。

そうやって数時間を経た後、やっと目的の周回に辿り着く。でも突破できない。また最初からやり直し、それでも目標に届かない。これを気が遠くなるような期間、ずっと繰り返してきたのだ。

普通の人であれば、本気でゲームを数時間プレイしていれば当然疲れる。ところがX氏は、5分くらい休んだだけで次のプレイを始める。しかも精度は落ちることが無く、常に高いパフォーマンスを発揮していた。こんな超人は他に見たことが無かった。



世の中には、凄いプレイヤーはたくさん居る。それでも、私にとってはX氏が最高のプレイヤーだ。彼が苦労して目標を達成した姿を見られたことは、とても幸せな体験だと思う。